手伸べ返し 6

自動車は、自分が如何ほどの人間であるかを人に知らしめるに打ってつけであるとわたしは考えて居ります。わたしの愛すべきジーノがあんななのも、父が一生を掛けたところでハリヤーに届かずまるで宝石の如く大衆車を磨き上げるのにも、きちんと理由があるのです。男はハリヤーを愛して止みませんでした。ハリヤーを愛していた? いや違う、男が愛していたものとは。
「またアイスのチョコを落としてる」
わたしはクランキーチョコのアイスクリームを食べて居ました。わたくしはチョコとアイスを好物として居りました。チョコとアイスの複合体ともなれば食べないわけに行きましょうか、行きません。しかし不注意で、チョコレートが棒から落ちて居るのです。ごめんごめんと謝り、わたしは食べ逃した部分を拾い上げました。
「この前も落としていた。ぜんぶ拭いた」
ギア近くの小物入れを指差し、もう一度言います。拭かれているのでチョコの溶け跡は見当たりません。
「ほんと? ごめんね」
「ここにもあった。ぜんぶ俺が」
「ごめんなさい」
「この粘着部分にも付いていたけど、それはもう捨てたけど付いていた」
詫び入りました。
「俺のハリヤーが」
黙って聞きました。(つづく・・)